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2009年03月27日

特許法の罠4 警告状の綻び

『当社は、遠心分離装置を用いた高密度のチタン製アンテナの製造方法の特許権を保有しています*1。貴社の販売している高密度のチタン製アンテナは、当社の特許権を侵害するものです。当社は、貴社に対し、貴社製品の販売の中止を求めるとともに、損害賠償として一億円の支払い求めます。 RCC社 知的財産部長 佐々木 功』
 体力のある大企業が、力任せに中小企業を潰そうとする。決して珍しいことではない。ビジネスの世界は所詮は弱肉強食である。しかし、一億円という額の大きさに、私は激しい憤りを覚えた。
「一億円の賠償金を払えなんて。そんなお金あるわけないのに。だから、もう夜逃げをするしかないんです」
 彼女は涙ぐみながら言った。
「RCCに先を越されてしまったんですね。残念としか言いようがない」
「でも、調べてみると、RCCが特許出願をしたのは二年半前なんです。父の発見の方が半年先でした」
「だとすれば、お父さんがすぐに特許出願をすれば、特許権を取れたはずですね*2」
「父もそうするつもりでした。三年前には、父以外にもう一人社員がいて、その人が特許についての手続きを進めていたんです。ところが彼は仕事を放り出して、突然工場を辞めてしまいました」
 私は、彼女の話を頭の中で整理してみた。三年前に彼女のお父さんがアンテナの製造方法を発見。その直後に特許出願の手続きをしていた社員が突然退職。二年半前にRCCが特許出願。これは妙だ。妙としか言いようがない。しかし、証拠は何もない。私は、もう一度、警告書を見た。この文面に、何か手がかりはないだろうか。
「お父さんは、その社員の人が辞めた後、どうされたんですか?」と、私は彼女に尋ねた。
「父は特許を取るのは諦めました。そのかわり、父はその製造方法を誰にも知られないように、秘密にしていました*3」
「なるほど、誰にも知られないように・・・」
 その時、私はRCCの犯した大きなミスに気がついた。私は、彼女の目を見た。悲しみに満ちた目をしていた。彼女を助けられるのは、もはや私しかいないのだ。
「瑞穂さん、私は便利屋という仕事をしながら、常々こう思っているんです。高くて固い壁と、それにぶつかって壊れる卵があったなら、私は固ゆで卵となって、壁を叩き潰そうと。それが・・・、それがハードボイルドってもんだろう!」
「はあ?」
「夜逃げなんて必要ないですよ。私にすべて任せてください。私がRCCと話をつけます!」
 私たちは、RCCへと向かった。

*1 「物」の発明だけでなく「方法」の発明も、特許を受けることができる。
*2 日本の特許法では、先に出願をした者が特許を受けることができる。これを先願主義という。
*3 特許権の取得にはコストがかかるので、ノウハウとして秘密に管理しておくのも、一つの方法である。
posted by かずひで at 02:01 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第一話 特許法の罠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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