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2009年04月11日

疑惑の登録商標1 試合会場

 目的地を決めて歩くのと、やみくもに歩くのでは、後者の方が断然疲れる。同じ距離を歩いても、疲労の度合いが全く違う。そのことに気づいたのは、初めて迷い猫を探した時だった。猫探しというのは、便利屋の仕事の中でも大変な部類に入ると思う。広い猫の行動範囲を、いつ見つけられるかも分からずに歩き続けるのは、精神的にも肉体的にもハードな仕事である。
 それに比べると、今日の仕事はずいぶんと楽だ。なにしろ、椅子に座っているだけなのだから。私は、ボクシングの会場で試合を観戦していた。席はリングサイドの最前列。リング上では、クリンチだらけの試合が続いている。この試合が終われば、やっとメインイベント。ライト級タイトルマッチが行われる。それにしても、退屈な試合だ。さっきから、猫のようなパンチと、社交ダンスのようなクリンチが繰り返されている。私は欠伸をしようとして、背筋を伸ばした。その時、背後から肩を叩かれた。
「玉村さん、今日はお楽しみ頂いていますか?」
 彼はニコニコしながら言った。私は慌てて欠伸を噛み殺す。
「残念ながら、観戦を楽しむのは無理なようです。わたくし玉村光雄は、仕事中には一瞬たりとも気を抜けない性分なんですよ」
「そうでしたか」
「もう少しリラックスしたいと思うこともあります。しかし、私の超人的な集中力が、それを許してくれません」
「それは頼もしい。次の試合で何か起きたときには、よろしくお願いします。それでは、私は試合に備えて、選手の元に戻ります」
 そう言い残して、彼は軽い足取りで通路を歩いていった。彼は村田ボクシングジム会長の村田三郎。今回の仕事の依頼人だ。
posted by かずひで at 20:44 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第二話 疑惑の登録商標 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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