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2009年03月21日

特許法の罠1 孤独なトレーニング

 二百回の腕立て伏せを終え、私は立ち上がる。上半身のトレーニングはこれで終了だ。息を整えながら、壁に掛かった鏡を見る。半年前に負傷した右肩は、左と同じ逞しさまで回復したようだ。
 このトレーニングルームには、バーベルやダンベルは置かれていない。私は、自分の体重を用いたトレーニングしか行わないからだ。それは、ボディビルダーのような見栄えのよい筋肉でなく、戦うためのしなやかな筋肉を作るためである。といっても、私は格闘家ではない。私は便利屋。名前は玉村光雄。
「玉村さん。下の事務所にお客さん来てますよ」
 部屋の外から河原の声がした。ここは、便利屋玉村堂。河原は私の助手である。
「私はこれからスクワットを千回しなければいけない。君がしばらく相手をしていてくれ」
 河原は助手といっても居候のようなものだ。任せられる仕事と言えば、依頼人の相手と、犬の世話くらいしかない。私はスクワットを始めた。
「僕が相手をしちゃっていいんですか?女性のお客さんですよ」
「女性だと?若いのか?」
「若くて綺麗な人ですよ」
「今すぐ行く!」
 私は、タンクトップの上にシャツを羽織った。階段を駆け降り、一階の事務所へと向かう。
posted by かずひで at 00:52 | Comment(2) | 第一話 特許法の罠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

特許法の罠2 麗しき依頼人

 事務所に入った瞬間、私は軽い眩暈を覚えた。見慣れたはずの事務所が、一人の女性のせいで、まるで別空間のように感じられたからだ。女性の歳は二十歳を過ぎたくらい。大きな黒い目と、光が当たっているかのような白い肌が印象的だ。小柄だが、その美しさが存在感を醸し出している。
「どうも、私が玉村です。三十を過ぎて独身ですが、決して女性に興味がないわけじゃない。便利屋という仕事柄、なかなか縁がないのです。それでもこの仕事をしているのは、弱者を助けるため。決して権力には屈しません。そのせいで、警官とは犬猿の仲です。ところでお嬢さん、お名前は何とおっしゃいますか?」
「え?ああ、私は、松本瑞穂といいます」
 戸惑ったような声で、その女性は答えた。緊張しているのだろう。
「瑞穂さんですか。いいお名前ですね。あなたのような若くて美しい女性が、ここに来るのは珍しい。私の依頼人は、一癖も二癖もある野郎が多いのです」
「そ、そうですか。あの、実はご相談があるのですが」
「相談がなければ、こんな所には来ないでしょう。どうぞ、お話ください。ただし、法に反するようなことは、お手伝いできません。それが、便利屋玉村のポリシーなのです。留置場に入ったことは一度ならずありますが、この仕事のせいじゃない。痴漢と間違われたのが理由です」
「そうですか。あの、実は・・・」と言ったところで、彼女は口ごもった。どうも厄介な仕事の予感がする。私は彼女が話し始めるのをじっと待った。
「実は、夜逃げを手伝って欲しいんです」
 震える声で、彼女は言った。
posted by かずひで at 11:26 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第一話 特許法の罠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年03月22日

特許法の罠3 父親の背中

「夜逃げ?あなたが夜逃げをするんですか?」
 そう私は尋ねた。彼女は頷いた。
「私と、そして父を、夜逃げさせて欲しいんです」
 どんな仕事にでも飛びつくほど、私は落ちぶれているわけじゃない。椅子に背をもたれ、これまでにこなしてきた仕事を思い出した。害虫の駆除。引越しの手伝い。迷子の猫の捜索。危ない橋をあえて渡ることはしなかった。
 しかし、私は彼女の依頼を断ることはできなかった。彼女の切なげな表情は、私の心の琴線に触れ、そしてそれを激しく弾き始めていたのだ。
「何やら大変なことが起こっているようですね。お聞きしましょう」
「私の父はたった一人で、松本製作所という小さな町工場を経営しています。工場では家電メーカーの下請けで、電化製品の部品を製造しています。でも、単なる下請けだけをしているのではありません。父は、製造方法を色々と工夫して、よりよい製品を作ってきました」
「ほう、お父さんはなかなかの腕の持ち主なんですね」
「工場では、ここ数年は携帯電話のアンテナを製造していました。三年前、父は高性能のアンテナを製造する方法を見つけました。チタンを遠心分離機にかけることで、高密度のチタン製アンテナを作る方法です。その方法を用いると、電波の感度が二倍になるんです」
「それは素晴らしい。日本の工業力を支えているのは、あなたのお父さんのような優秀な技術者です」
「父は、そのチタン製のアンテナの販売を始めました。感度のよいアンテナということで、業界でも話題になりました。ところが先日、電器メーカーのRCCから、警告状が届いたのです」
「警告状?いったい何の警告ですか?」
「これを見てください」
 彼女は一枚の紙を、バッグから取り出した。
posted by かずひで at 23:02 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第一話 特許法の罠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年03月27日

特許法の罠4 警告状の綻び

『当社は、遠心分離装置を用いた高密度のチタン製アンテナの製造方法の特許権を保有しています*1。貴社の販売している高密度のチタン製アンテナは、当社の特許権を侵害するものです。当社は、貴社に対し、貴社製品の販売の中止を求めるとともに、損害賠償として一億円の支払い求めます。 RCC社 知的財産部長 佐々木 功』
 体力のある大企業が、力任せに中小企業を潰そうとする。決して珍しいことではない。ビジネスの世界は所詮は弱肉強食である。しかし、一億円という額の大きさに、私は激しい憤りを覚えた。
「一億円の賠償金を払えなんて。そんなお金あるわけないのに。だから、もう夜逃げをするしかないんです」
 彼女は涙ぐみながら言った。
「RCCに先を越されてしまったんですね。残念としか言いようがない」
「でも、調べてみると、RCCが特許出願をしたのは二年半前なんです。父の発見の方が半年先でした」
「だとすれば、お父さんがすぐに特許出願をすれば、特許権を取れたはずですね*2」
「父もそうするつもりでした。三年前には、父以外にもう一人社員がいて、その人が特許についての手続きを進めていたんです。ところが彼は仕事を放り出して、突然工場を辞めてしまいました」
 私は、彼女の話を頭の中で整理してみた。三年前に彼女のお父さんがアンテナの製造方法を発見。その直後に特許出願の手続きをしていた社員が突然退職。二年半前にRCCが特許出願。これは妙だ。妙としか言いようがない。しかし、証拠は何もない。私は、もう一度、警告書を見た。この文面に、何か手がかりはないだろうか。
「お父さんは、その社員の人が辞めた後、どうされたんですか?」と、私は彼女に尋ねた。
「父は特許を取るのは諦めました。そのかわり、父はその製造方法を誰にも知られないように、秘密にしていました*3」
「なるほど、誰にも知られないように・・・」
 その時、私はRCCの犯した大きなミスに気がついた。私は、彼女の目を見た。悲しみに満ちた目をしていた。彼女を助けられるのは、もはや私しかいないのだ。
「瑞穂さん、私は便利屋という仕事をしながら、常々こう思っているんです。高くて固い壁と、それにぶつかって壊れる卵があったなら、私は固ゆで卵となって、壁を叩き潰そうと。それが・・・、それがハードボイルドってもんだろう!」
「はあ?」
「夜逃げなんて必要ないですよ。私にすべて任せてください。私がRCCと話をつけます!」
 私たちは、RCCへと向かった。

*1 「物」の発明だけでなく「方法」の発明も、特許を受けることができる。
*2 日本の特許法では、先に出願をした者が特許を受けることができる。これを先願主義という。
*3 特許権の取得にはコストがかかるので、ノウハウとして秘密に管理しておくのも、一つの方法である。
posted by かずひで at 02:01 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第一話 特許法の罠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年03月28日

特許法の罠5 便利屋の仮面

 佐々木功は、細身で背の高い男だった。歳は30代半ば。その若さで部長ということは、相当の切れ者なのだろう。
「私が、RCC社知財部長の佐々木です。松本社長のお嬢さんですね。わざわざお越し頂き、ありがとうございます。どうぞお掛けください」
 そう言って佐々木は手で椅子を示した。RCCの会議室には、佐々木と瑞穂とそして私の三人がいた。
「ところで、お隣の卵のような顔をされた方は、あなたのボディーガードですか?」
 佐々木は私を一瞥し、再び瑞穂の方を向いて言った。
「いえ、この方は・・・」
「私は便利屋玉村堂の玉村光雄と申します。今日は、彼女のボディーガードとしてだけでなく、あなたとお話をするために、ここに来ました」
 戸惑う瑞穂に代わり、私は自ら名乗った。
「ほう、便利屋さんが何のお話でしょう?」
「あなた方が送ってきた、警告状についてのお話です。あの一分の隙もない、完璧な警告状についてのね」
「面白いことを言う方だ。便利屋だけでなく、皮肉屋も始められたらいかがでしょう?」
 やはり切れる。この男には小細工は通用しないようだ。
「それでは、単刀直入に申し上げましょう。松本製作所の社員が、三年前に突然退職しました。あなた達は、その社員から、チタン製アンテナの製造方法の情報を買いました。そして、あたかも自分達が発明したかのごとく特許出願をしました」
 私はゆっくりと話しながら、彼の表情を観察した。
「ずいぶんと変わった発想をなさいますね。弊社の企画部に、スカウトしたいくらいです」
 彼は顔色一つ変えずに言った。
「残念ですが、私は企画屋にも皮肉屋にも興味がありません。それから、私がただの便利屋だと思ったら大間違いですよ」
 私は、胸のポケットから、菊のバッジを取り出した。今まで冷静だった佐々木の表情に、変化が生じた。
「それは、弁理士バッジ・・・。」彼は口元を引きつらせた。「まさか、お前は弁理士*4なのか?」
 私は椅子から立ち上がり、佐々木を見下ろした。
「そうだ!私は、理(ことわり)を弁(わきま)えた弁理屋、玉村光雄だ!」

*4 弁理士とは、知的財産の専門業務を行うことができる国家資格。ひとことで説明するのが難しい職業である。
posted by かずひで at 01:07 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第一話 特許法の罠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

特許法の罠6 玉村の推理

 佐々木は明らかに動揺していた。
「便利屋だろうが弁理士だろうが一緒のことだ。我々が情報を買ったという証拠がどこにあるんだ!」と激しい口調で言った。
「証拠ならここにある!」
 私はカバンから警告状を取り出し、机に叩き付けた。
「警告状には、こう書いてある。『当社は、遠心分離装置を用いた高密度のチタン製アンテナの製造方法の特許権を保有しています。貴社の販売している高密度のチタン製アンテナは、当社の特許権を侵害するものです』」
「それが、どうしたっていうんだ?」
「松本製作所はチタン製アンテナを販売したが、それをどういう方法で製造しているかは、秘密にしていたんだ。それなのに、この警告状には『遠心分離装置を用いた製造方法の特許権』を侵害したと書いてあるな?なぜ、松本製作所で、遠心分離装置を用いた方法を用いていると、知っているんだ!」
「ちょっと待て。どんな方法を使っているかは知らなかった」
「言い訳をするのか!元社員から情報を買ったから、松本製作所の製造方法を知っていたんだろう。そして、それをうっかり警告状に書いてしまった。お前は、勇み足をしたんだ!」
「めちゃくちゃだ!出て行ってくれ!」
「そうはいかない。罪を認めるまでは、ここを一歩も動かないぞ」
 佐々木は立ち上がり、部屋の壁にかけられた電話を取った。
「警備室に繋いでくれ。ここにいる男を、つまみ出して欲しいんだ」
 受話器に向かって、彼は震えた声で言った。
posted by かずひで at 23:28 | Comment(2) | TrackBack(0) | 第一話 特許法の罠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年03月31日

特許法の罠7 怒りのサブミッション

 会議室のドアが開き、警備員が飛び込んできた。彼は私に近づき、右手で襟を、左手で袖を掴んできた。どうやら柔道の心得があるようだ。しかし、彼の力量では、私のバランスを崩すことはできなかった。その表情に焦りの色が浮かぶ。
 その時、きゃあ、という悲鳴が聞こえてきた。振り向くと、佐々木が瑞穂の腕を掴んでいた。私の怒りは沸点を超えた。
 私は警備員の顔面に、至近距離からの頭突きを食らわせた。鼻から真っ赤な血を噴出させながら、彼はその場に崩れ落ちる。私は素早く佐々木に近づき、瑞穂を掴んでいた腕をひねりあげた。
「お前たちは、瑞穂さんのお父さんの発明の情報を盗み、自分達の発明のように見せかけて、特許出願をした。そういうやり方は、冒認出願*5にあたるんだ。本当なら特許権は瑞穂さんのお父さんのものだ。さあ、この、特許権の移転登録申請書*6にサインをしろ」
「冗談じゃない。そんな要求には応じられない」
 佐々木は私の腕をふりほどき、左ストレートを放ってきた。私は、そのパンチを両手で受け止めた。そのまま佐々木の左腕にぶら下がるように飛びつく。佐々木は前方に一回転する。次の瞬間、私の両足に挟まれた彼の左腕は反り返っていた。電光石火の飛び付き腕ひしぎ十字固めが決まったのだ。
「うぎゃー!助けてくれ!」
 佐々木は悲鳴を上げた。私は技をかけたまま、彼の手元に移転登録申請書とペンを投げた。
「さあ、サインをしろ!」
「分かった。だから、技を外してくれ」
「駄目だ!今すぐ空いている右手でサインをするんだ。そうしないと、左腕をへし折るぞ!」
 佐々木は右手でペンを持ち、サインをした。私は技を解いた。
「いいか、佐々木!人の発明を盗んで特許を取得し、それを盾に一億円の損害賠償を請求するなんて、人の道を外れたやり方だ!お前は外道だ!いや、外道オブ外道ズだ!文句があるなら言ってみろ!」
 彼は何も言わなかった。左手を押さえ、涙を流しながら、ぶるぶると震えるだけだった。

*5 発明者に無断でした特許出願のこと。本来なら冒認出願は特許を受けられない。
*6 特許権の移転したい場合、移転登録申請書を特許庁に届ける。
posted by かずひで at 01:13 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第一話 特許法の罠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年04月02日

特許法の罠8 愛の行方

「玉村さん、本当にありがとうございました。特許権の移転をしてもらえたおかげで、アンテナの販売を再開することができました」
 そう言って、瑞穂は深々と頭を下げた。
 事件からひと月。彼女は再び私の事務所にやってきた来ていた。
「それにしても、玉村さんは、弁理士でいらっしゃったんですね」
「いやいや、お恥ずかしい。困っている人を助けるためには、肩書なんて関係ありませんよ」
 私は彼女の顔を見つめた。悲しみに満ちていた目は、今は輝きを取り戻していた。この輝きが失われることは、もう二度とあってはならない。
「瑞穂さん、今回の事件を通じて、私は気づいたんです。あなたを守ることが、私の運命なのだと」
 瑞穂は目を丸くしている。私の気持ちは伝わっているようだ。私は続けた。
「あなたが卵の黄身ならば、私は黄身を守る殻となります。さあ、私の胸に飛び込んで来てください」
 私は両手を広げた。すると彼女は椅子から飛び上がった。
「ゆ、許してください。お金はきちんとお支払いしますから」
 彼女は玄関から駆け出して行った。予想外の出来事に、私は呆然とするしかなかった。しばらくして、階段を降りる足音が聞こえてきた。フレンチブルドッグのマーロンを抱いた河原が、部屋に入ってきた。
「依頼人さん、出て行っちゃいましたね」
「いったいどういうことなのか、神様に尋ねたい気分だよ」
「『お前が魅力的過ぎるせいだ』と神様は答えると思いますよ」
 魅力的過ぎるせい?だとすれば、私は彼女を悲しませてしまったのかもしれない。
「この魅力は生まれつきなんだ。どうすることもできない」
「マーロンご飯だよ。うーん、いい子だ、いい子だ」
「河原、この魅力はどうしたら・・・」
「ああ、はいはい、本当に困りましたねー。それより玉村さん、特許法百四条って知ってますか?」
 マーロンに餌をやりながら、河原は言った。
posted by かずひで at 00:28 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第一話 特許法の罠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年04月04日

特許法の罠9 推定有罪

 特許法百四条?全く思い出せない。
「百四条は、非常に重要な規定だ」
 時間を稼ごうとして、そう言ってみた。
「知らないんですね」
 気づかれたようだ。
「そんなわけがないだろう。度忘れしただけだ」
「物を生産する方法の発明についての特許がある場合、その物が特許出願前に日本国内において公然知られた物でないときは、その物と同一の物は、その方法により生産したものと推定する」
 河原は、特許法の百四条の条文を読み上げた。こいつ、暗記してるのか?
「ああ、そうだった」
「百四条は『生産方法の推定』の規定ですよ」
 河原が与えたビーフジャーキーを、マーロンは大きく口をあけて齧っていた。
「高密度のチタン製アンテナって、3年前にRCCが特許出願をするまでは、日本にはなかったんですよね?」と、河原は言った。
「おそらくはそうだ」
「だとすれば、高密度のチタン製アンテナが販売されていれば、それは特許になっているのと同じ方法で生産されたものと、推定されるわけです」
 何を言っているのか、全く分からない。
「おいおい、今日は疲れているんだ。もう少し噛み砕いて説明して欲しいな」
 私は平静を保ったふりをして、彼に尋ねた。
「つまり、RCCが松本製作所に対して、同じ生産方法で作ったと指摘したのは、元社員から情報を買ったからとは限らないということです。『生産方法の推定』の規定に従って、推定をしただけかもしれないわけです」
「な、なんだって!?」
posted by かずひで at 02:08 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第一話 特許法の罠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年04月09日

特許法の罠10 真実の拳

「RCCは松本製作所よりも先に、チタンのアンテナの製造方法の発明をした。彼らはすぐに特許出願をして、無事に特許を受けることができた。ところが、松本製作所がチタン製のアンテナを販売を始めた。特許権が侵害されている可能性が高いが、松本製作所の生産工程は秘密にされているので、証拠がない。そこでRCCは、『生産方法の推定』の規定に則り、松本製作所が同じ方法で生産してるものと推定して、警告状を送った。それが真相じゃないですか?」
「それじゃあ、RCCは何も悪くないじゃないか!」
「そうです。勇み足をしたのは、玉村さんの方ですよ」
 なんということだ。私は勇み足をしてしまったのだ・・・。いいや待て!RCCは特許権の移転に応じたではないか。さらに、その後も何の文句をつけてこない。ということは、彼らにも疚しいところがあるのだ。つまり、私の推理通り、RCCは松本製作所の元社員から情報を買っていたということだ。
「河原君、そうは思わないかね?」
 自信を取り戻した私は、そう尋ねた。
「そうかもしれませんが・・・」河原は冷ややかな視線を私に向けながら続けた。「玉村さんの腕力を恐れて、何も言えないだけかもしれませんよ」
「わ、腕力だなんて、まるで私が暴力でも振るったみたいじゃないか!見てきたようなことを言わないでくれ!」
 私はきつく彼を睨みつけた。
「見ていなくても、そのくらい推定できますよ」
 推定だと?うまいことを言ったつもりか!私は興奮して立ち上がった。
「おい、推定、推定と言うが、真実はどうでもいいのか?大切なのは真実じゃないのか!」
 私は右の拳を高く突き上げた。
「いいかよーく聞け!これまでも、そして、これからも、私はこの拳で真実を守り続けるんだ!」
 河原の視線が、さらに冷たくなった。気がつくと、マーロンもこちらを見ていた。私は、突き上げた右腕を回して、肩の調子を確かめるふりをした。
(了)
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posted by かずひで at 00:57 | Comment(0) | TrackBack(0) | 第一話 特許法の罠 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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